血管外科医 平山茂樹 病気について

下肢の血流障害のお話

  写真は下肢の血流障害です。膝から下の動脈が詰まってしまったために、足の指が黒く変色しミイラ化しています。診断は重症虚血肢です。虚血とは十分に血液が組織に送られていない状態を言います。 この患者さんは、足の動脈がつまったために足の指先まで十分に血液が届けられなくなり足の指が黒く墨のようになってしまったのです。壊死という状態です。しかし、急になったわけではありません。何年も前から危険を知らせる徴候があったにもかかわらず、それを病気と気づかずに、 潰瘍を形成して医師に相談しても診断されずに十分治療されなかった結果、徐々に壊死が進行してきたのです。では、こうなるまでにどのような事が起きていたのでしょうか?

  皆さんは100段の階段を上がって頂上の神社にお参りに行くときどうなりますか?途中でふくらはぎが痛くなって休みますか? 子供は休まずにぴょんぴょん駆け上がって行きます。休む回数は人によって違いますが、私は25段程度でふくらはぎの痛みに我慢できなくなり止まって休みます。ふくらはぎの筋肉に供給される血液が不足するために筋肉が酸素欠乏状態に陥り痛みを生じるのです。2,3分ほどじっとしていると筋肉に 十分血液が供給されて痛みが引き、また歩き出せる様になります。また25段上ると痛みが出現して休みます。そんなことを4回繰り返して頂上に到着するわけです。私のこの痛みは正常といえるでしょう。

  しかし、これが近くの駅まで歩く途中の平地で起きると病気の可能性があります。 歩いて15分の駅まで行くのに5分歩いて少し休む。また、5分歩いて少し休む。これを3回繰り返して駅にたどり着く。

これは閉塞性動脈硬化症という病気の可能性があります。病院で相談しましょう。

「年を取ったからしょうがないね。」と明らかな症状が現れているにもかかわらず異常と思わずに 我慢して生活している人が多い事がこの病気の発見されにくい原因であり治療が遅れる理由です。

下肢の虚血による症状
  1.間歇性跛行(歩行時のふくらはぎの痛み)
安静にしているときには症状がないが、一定の距離を歩くとふくらはぎに疼痛を生じる。休むと治る。また同じ距離を歩くと疼痛を生じる。休むと治る。このような下肢の痛みを間歇性跛行(かんけつせいはこう)と言い閉塞性動脈硬化症の初期症状です
  2.安静時痛
血流障害が進行すると運動しなくても、いつも足に強い痛みを感じるようになります。横になるときはベッドから足を下に垂らして寝ると楽なので患者さんはそうしています。これは、足を体より下げることによって重力により血流が増加し症状が軽減されるためです。
  3.足趾潰瘍
さらに症状が進むと足趾の先端に潰瘍を生じます。血流は先端に行くほど悪くなっていきます。ですから虚血の潰瘍は足趾の先端に出来ることが多いのです。そこに感染が加わると蜂窩織炎になり組織の壊死が急速に進みます。
※褥瘡との鑑別点は?
褥瘡は足趾の先端に出来ることは少なく布団で寝るときに圧力が加わるカカトや仙骨部などによく見られます。
  4.壊死
さらに血流障害が進行すると足趾の先端が黒くミイラ化します。
閉塞性動脈硬化症の診断
ASO(arteriosclerosis obliterans)
  1.まず、足の動脈拍動を触れます。足の甲を走る血管の拍動を触知できれば下肢の血流は良いと判断します。触れない場合は次の検査に進みます。
  2.ABI検査(足関節上腕血圧比)
これは足首と上腕の血圧を測定し、足の血圧を腕の血圧で割った数値です。通常は足の血圧が腕の血圧より少し高いので、1.1くらいの値がですが、足の血管に詰まりがあると、その値が低下していきます。0.9を下回ると血流障害がある可能性があります。この検査は血圧を測るだけで簡単にできる痛くない検査です。かなりの確率で病気を発見できますので大変有用な検査方法です。
  3.症状が典型的で、足背動脈が触知できず、ABI検査が0.9以下であればかなり閉塞性動脈硬化症の可能性が高いです。
  4.造影CT検査
これは腕の静脈から造影剤を注射しながら体と足のCTを撮影する検査です。この検査でほぼ確定診断が出来ます。

大動脈瘤(沈黙の殺人者)のお話し

  大動脈瘤の自覚症状は破裂するまでありません。破裂すると猛烈な腹痛や胸痛に見舞われます。動脈が破裂するわけですから体内に大出血を起こし80%以上の確率で死に至ります。多くの人が即死です。救急車を呼んで病院にたどり着いて手術を受けられれた人は助かる可能性があります。普段これといった自覚症状がないため、 危険を自覚しないまま放置され、知らないうちに増大し、ある日突然破裂し、初めてことの重大性に気が付く病気「沈黙の殺人者 (Silent Killer)」と呼ばれています。 大動脈瘤は心臓から全身に血液を送る大動脈の壁がこぶのように膨らむ病気です。胸部大動脈瘤では瘤径が5.5p以上、腹部では5p以上であると破裂のリスクが高まりますので破裂する前に治療をすることが大切です。

大動脈瘤の診断

  自覚症状が無いので、患者さんが自らこの病気を疑って病院を受診されることはありません。人間ドックや他の病気の診断のために撮影したCT検査や腹部エコー検査で偶然発見されることがほとんどです。大動脈瘤はCT検査でほぼ100%診断できますので人間ドックを受けていれば安心です。

拍動する腹部腫瘤。やせた人は体の外から動脈瘤が確認できます。痛みはありません。

腹部動脈瘤のCT写真です。両側の豆のような臓器は腎臓です。写真中央部に丸くふくれている物(矢印→)が腹部大動脈瘤。その下は足に続く血管です。

大動脈瘤の治療

  以前は、全ての患者さんの開胸もしくは開腹手術を行っていました。胸やお腹を切って大動脈を露出し、膨らんだ動脈を切り取り、人工血管で切り取った部分の動脈を再建していました。傷も大きいし、何より患者さんの受ける体の負担が大きな手術です。

お腹を開けて動脈瘤を直下に見下ろしたところ。

動脈瘤を切除して人工血管で血流を再建したところ。

 

  そこで最近はステントグラフト手術が行われるようになりました。胸やお腹を直接切ることなく足のつけ根からステントグラフトを血管内に挿入し大動脈瘤を動脈の内側から治療するという方法です。傷も小さくて済みますし患者さんの体の負担も比較的軽くなりました。 この方法は魔法の様な方法です。血液の流れている動脈の中に足の付け根の血管から造影剤で動脈瘤の位置と形を確認しながら、適切なサイズのステントグラフトを寸分の狂いもなく入れていきます。いくつかのパーツを組み合わせて、内臓や足に供給される血流を確保した形で動脈瘤だけ空置するのです。

優れたステントグラフトというデバイスと 透視装置を備えた手術室、熟練した技術を持った医師による治療が必要ですので、施行できる病院は限られています。

実際に血管内に挿入するステントグラフト。いくつかのパーツを血管の中で組み合わせて逆Y字を完成させる。上の太い部分を腹部大動脈に、二本に別れた部分を右足と、左足に入れる。

腹部ステントグラフト内挿術の手術写真

胸部ステントグラフト内挿術の手術写真

下肢静脈瘤のお話

  下肢静脈瘤は見れば一発でわかります。ふくらはぎの静脈がもこもこと皮膚から浮き出して蛇行した状態です。写真の患者さんの足を見るとふくらはぎの血管がもこもこと浮き出しています。これを見ただけで診断は下肢静脈瘤です。ふくらみ方には個人差がありますが、日本人の約9%がこの病気であるといわれております。 静脈の逆流防止弁が壊れることにより血液がふくらはぎに逆流してきたことが主な原因です。

  初期には症状はありませんが、ひどくなると血管のふくらみ以外の症状が現れます。特徴的なものは「だるい」「おもい」「かゆい」「つる」といったものです。

下肢静脈瘤の診断

足の血管が浮き出してきたと気になったら一度血管外科医にご相談ください。
下肢静脈エコー検査を行い診断を確定します。

下肢静脈瘤の治療

  以前は、静脈抜去術という外科手術を行っておりました。腰椎麻酔と入院が必要であるために手術は自覚症状の強い人、色素沈着や皮膚潰瘍を形成した人などに限られておりました。最近はレーザー光線による治療が行われる様になり、腰椎麻酔や入院する必要がなくなりました。そのため「見た目が悪いから・・・」と気にされている方にまで手術適応を拡大しています。